Hero Vs Inner Demon
昔々、異世界アルセリアに、一人の若者が目を覚ましました。その名はリオ。彼は、現実世界でごく普通の生活を送っていたはずが、気がつけば見知らぬ森の中で目を覚ましていました。

森の奥で出会った老賢者はリオに告げました。
「おぬしは選ばれし勇者。魔王グリムを倒し、この世界に平和をもたらす宿命を負っておる。」
戸惑いながらもリオは剣と盾を与えられ、冒険の旅へと出発しました。旅の途中で仲間たちと出会い、試練を乗り越え、少しずつ勇者としての力をつけていきました。
しかし、リオは次第に疑問を抱くようになりました。魔王グリムは具体的な姿形を持たず、国ごとにその正体が異なって語られていたのです。ある村では貪欲さの化身とされ、別の都市では裏切りそのものとされていました。
リオが旅を続ける中で出会った人々は、皆それぞれの不安や怒り、悲しみを抱え、その感情を「魔王」のせいだと言いました。彼は仲間たちとともに真実を追い求め、ついに魔王の居城とされる場所にたどり着きます。
そこには壮大な玉座があり、魔王のような存在が待ち受けているはずでした。しかし、城の中心にたどり着いたリオが目にしたのは、暗い鏡だけでした。その鏡はまるでリオ自身の内面を映し出すようで、彼はその中で自分の恐れ、怒り、疑念を目にします。
「これが魔王だというのか?」とリオがつぶやくと、鏡の中から声が響きました。
「そうだ。私はお前の心の中に潜む影。お前だけでなく、この世界のすべての者の中にいる。」
リオは剣を握りしめましたが、攻撃することが正しいのかどうか分からず、立ち尽くします。そのとき、これまで共に旅をしてきた仲間たちの言葉が脳裏によぎりました。
「恐れに立ち向かうのは剣だけではない。心の中の闇を認め、そこから目をそらさないことこそが、本当の勇気なんだ。」
リオは剣を下ろし、静かに目を閉じました。そして、自分の中の不安や怒りを一つひとつ受け入れることを決意しました。すると、鏡に映る魔王の姿はゆっくりと薄れていき、やがて消え去りました。
その瞬間、城の外に広がる大地には暖かな光が差し込みました。人々の心にあった影が少しずつ溶けていくように感じられました。
リオは冒険の終わりを迎えましたが、それは新たな旅の始まりでもありました。この世界が真に平和になるには、誰もが自分の心の中の影と向き合う必要があると悟ったのです。
それ以来、リオは旅人として各地を巡り、剣ではなく言葉と行動で人々の心に光を灯す存在となりました。
おしまい。